現代にも似ていますが、平安時代末期もまた社会不安に災害や疫病などが追い打ちをかけ、人々のあいだには1052年に始まるとされた「末法」の思想が広がっていました。天皇や貴族もまたその到来に怯え、仏教に帰依し、救いを求めるようになっていました。
死後に輪廻転生する世界を仏教では「六道」と呼び、天道、人道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道であり、すべての人間は死後の世界を果てしなく巡り続ける運命でした。そのような状況のもとで、天台僧・源信が985年に著したのが手引書『往生要集』です。
その「六道」を描いたものが「六道絵」であり、中でも畜生道、餓鬼道、地獄道の三つがもっとも恐れられ、そこは生前に極悪の罪を犯した者が苦しむところです。よって三悪道と呼ばれていますが、とりわけ地獄に堕ちた者はもっとも痛みの激しい受難が衝撃的に表現されています。当時のマスメディアであった壁画や屏風、掛物、絵巻、経典の見返しなどに幅広く描かれていました。
地獄にまつわる多くの作品は宮中や寺院に保管されてきましたが、現在ではその多くは散逸し、失われてしまっております。幸運にも平安末期に制作された「地獄草紙」と「餓鬼草紙」は現存しており、国宝に指定されています。「六道絵」の真髄を今に伝える貴重な作品です。
こうした「六道絵」制作の背後には、後白河上皇の存在を無視できません。時代の権力者として美術を愛好し、積極的に絵師に絵をかかせ、そのために新設した蓮華王院(現在の三十三間堂)の宝蔵に多くの絵巻物を収蔵していたという有力な説があります。こうした時代背景も解説(日英二か国語)では詳細に述べられています。
地獄草紙 | |
---|---|
寸法 | 27.6×707.0 cm |
監修 | 小林 忠 |
解説 | 上野 友愛 |
餓鬼草紙 | |
---|---|
寸法 | 28.6×920.0 cm |
監修 | 小林 忠 |
解説 | 上野 友愛 |
価格 | |
---|---|
標準価格 | 250,000円(税別) |